チップは、あるべきか、廃止すべきか。。。アメリカにとっては重要な問題です!

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こんにちは、NYフードエキスパート、明比 玲子です。

今日は、日本に住んでいる方には、あんまり関係のない話しかもしれないので、書こうかどうか迷ったのですが、NYでは、とてもビッグニュースなので、書くことにしました。

それは、今週水曜日に、NY一番と言われるレストランオーナー、Danny Meyer(ダニー・マイヤ-)が、自分の店のチップ廃止宣言をしたことです。

彼は、日本では、六本木ヒルズに「Union Square Tokyo(ユニオン・スクエアー・東京)」を出していることで有名です。(写真は、ネットより)


このノーチップ制は、今までお客さんが払っていたチップ(平均18~20%ぐらい)の分を、食べ物の価格に上乗せをするので、ダイニングの費用としては、今までとほとんど変わらないということです。

レストランでのチップ制のない日本人にとって、いや他の外国人にとっても、アメリカでのチップ制度に悩まされた経験があるはずです。

特に、「こんなサービスやこんなまずい物に、なんで20%も払わなくてはならないのか?」と思われた方も多いと思います。実際、私も、日本からのお客様に、責められたこともあります。

私も今までに、あまりにもひどいサービス、料理には、チップを少なめに置いたり、まったく置かなかったこともあります。

それは、チップは、あくまでも志ということだからなのですが、実際の所、どんなにひどいサービスや料理でも、15%は置かないと、レストランのマネージャーやウエイターが飛んで来ます。

「何か、お気に召さない点がありましたでしょうか?」ってね。

というのは、こちらのウエイターの基本給はとても低く、彼らはチップで生活しているから、生活がかかっているのです。

でも、それならそれで、「もっとちゃんとしたサービスをしろ」ってことになりますよね。

ただ、料理は彼らが作るわけではないので、料理がまずいと、彼らがごめん被ることになる時もありますが。

レストランの中では、とても不公平が生じているのも事実です。

私が、25年ほど前、NYの高級店「Bouley(ブーレー)」で働いていた時は、確か、初任給が手取りで1ヶ月1200ドルぐらいだったと思います。

彼のお店は、特に安いので有名だったのですが、キッチンの従業員は、そんな安い賃金でチップももらえないのに、かたや、ダイニングルームのウェイターは、おそらく年収15万ドルぐらいあったと思います。

高級店になればなるほど、当然チップも高くなるわけです。まだ、NYの不動産が安かったあの頃、ウエイターで不動産を買いあさっていた人もいました。

今でも、高級店のウエイターは、かなりの高給取りです。

そして、*メートル・ディーになると、難しい予約を頼まれる客から、50ドル、100ドル(時には、もっと)のようなチップをキャッシュで一晩に何人からももらうのです。

おそらく、チップ制が廃止されても、アメリカの全てのチップ制がなくならない限り、メートルが受け取るチップは、永遠になくならないと思いますが。

話しはそれましたが、アメリカのレストラン業界でのチップ制というものを、少し理解して欲しかったのです。

NYのレストラン業界では、去年あたりから、「ノーチップにしよう」という声がだんだん強くなって来ており、もうすでに、ノーチップを試行しているお店も少しあります。

しかし、Danny Meyerほどの大物が、自分の店の全店をノーチップにすると宣言したことは、NYだけでなく、全米の他のお店にも多大な影響を与えます。大反対している人も、もちろんいます。

彼がレストランオーナーになったこの30年間に、キッチンの従業員の収入は25%しか上がっていないのに対し、ダイニングルームの従業員のそれは、200%も上がっているとのことです。

正直言って、キッチンの仕事の方が、ダイニングルームよりも200倍重労働で大変だと思います。そして、勤務時間も長いです。

私は、以前、このDanny Meyerを2時間に渡って、プライベートでインタビューをしたことがあります。

その時、一番印象に残っているのは、「一番大事なのは、お客様ではなくて、従業員だ」という彼の哲学です。

「お客様は、神様だ」と聞いて育って来た私は、一瞬びっくりしましたが、彼の説明を聞いて納得しました。

それは、アメリカ社会の体制に関係すると思います。アメリカは、どんどん職場を変えて、自分のお給料を上げて行く社会です。もちろん、同じ会社で長年働く人もいます。

でも、特にレストランの場合、普通は、いろんなシェフやダイニングルームを経験したい人が多いため、2年、いや、もっと短期間で従業員が去って行きます。

Dannyは、「これでは、いいサービスはできない。従業員が長年働いてくれてこそ、お客様との関係ができて、結局はお客様に一番のサービスができるのだ」と。

そして、彼のレストラングループは、福利厚生もとてもよく、本当にレストランについて学びたい人には、どのお店も、最高のお店だと思います。

そして、インタビューの中で、もう一つ忘れられないのが、「NYのレストランは、お料理は美味しくて当たり前。お客様がリピーターになってくれるかどうかは、おもてなしにかかっている」ということです。

要は、「そのお店で、嫌な思いをさせられたら、どんなに料理が美味しかったとしても、そのお客様は、2度と戻って来てくれない」ということです。

そういうことも含め、Dannyは、従業員がいかに幸せに働ける場を作るかということを、いつも一番に考えている人であるため、今回のノーチップ制も、全従業員のことを考えてのことだと言っています。

全従業員というのは、キッチン、皿洗いの人まで全ての人に、ノーチップにしたことにより得たお金を、公平にお金を分けるということです。

ですから、キッチンの人にとっては、かなりの朗報で、Dannyのお店では、腕のいいシェフを得やすくなると思います。

反面、ダイニングルームの人にとっては、収入が少し減るでしょうから、あまりいい気はしていないと思いますし、やめて行く人もいるのではないでしょうか?

どちらにしても、泣く子も黙る天下のDannyが考えに考えて出した結論であり、上手にことを進めることでしょうし、みんなが今後を見守っていると思います。

13店舗(1800人の従業員)のノーチップは、11月から、MoMaの中にある高級店「Modern」での実施を皮切りに、来年末までに全店のチップを廃止するそうです。この写真は、「Modern」のダイニングルームで撮影されています。(ネットより)


おそらく、最終的には、かなりのお店が、ノーチップになるのではと思われます。

最後に、彼の書いたこの本は、日本語にも訳されています。


少し長くなって、ごめんなさい。

では、また。

*メートル・ディーについて
メートルの解説を日本語で探したのですが、アメリカでのメートルは、少し意味が違っていますね。日本語の解説では、メートルは、給仕長となっていますが、もちろんサービスの補佐はするので、全てのことを知ってなくてはならないですが、アメリカの場合、それ以上に、テーブルの割当て、予約の管理の方が重要な仕事です。